
滝川第二高校は第87回全国高校サッカー選手権大会で3年ぶりのベスト8進出を果たした。
「やっぱり、強いね」と神戸に帰ってきて、私自身も声を掛けられた。
滝二は華麗に"復活"した。
現在ヴィッセルに籍を置く黒田和生前監督が滝川第二を去って2年。
後任の栫裕保監督は就任1年目の2007年、県のすべてのタイトルを逃した。
これは、チームでは実に12年ぶりの屈辱。
特に、「総決算」と位置づける全国高校選手権に出られなかったことは、県外のサッカー関係者にも衝撃を与えた。
"監督も代わって、滝二弱なったね"
こんな声も監督の耳には届いたという。
2008年は、栫監督にとっても、"新生滝二"にとっても大切な年だった。
今や、岡崎に代表されるように森島や金崎など日本代表候補にも何人もOBが名前を連ねるが、新チームにJリーグに進むような"スター選手"はいなかった。
ただ、チームワークは抜群だった。
滝川第二はAチーム(トップチーム。レギュラーを中心に構成)
Bチーム(Aチームを狙う2年生を中心に構成)Cチーム(1年生を中心に構成)と3つのグループに分けて普段、練習をしている。
ある雨上がりの日、水浸しのグランドでAチームの練習開始前。
B・Cのメンバーが、雑巾など布で水を汲む姿があった。
栫監督は「俺らの分まで(Aチームのみんな)頑張れよ~。部員81人で戦うぞ」
という姿勢を感じたそうだ。
今度は、別の日にB・Cの練習前にAチームの全員が、グランド整備やライン引きをしていた。
「自然とやっていた」(栫監督)姿に、チームへの手応えは日増しに大きくなっていった。
新人戦こそ、ベスト8に終わったものの、インターハイ・選手権を取り戻す。
特に、選手権の県大会決勝では、2度リードを許しながらの逆転勝利。
5点を取った攻撃力は、すさまじかった。
そして、全国でも、市立浦和(埼玉)、近大和歌山(和歌山)を破り、準々決勝へ。
レギュラーボランチ不在の厳しい戦いではあったが、部員全員の思いが、見事結集した結果だった。
栫監督が大会中、一番頭を悩ませたのが選手起用。
ケガ人もあったが、コーチ時代、Bチーム、いわゆるこれからレギュラーを目指そうとする選手の指導が長かった栫監督だけに、3年生、とくに苦労した最上級生を一人でも多く出したい。もちろん、相手に失礼のないよう。
そして、これは、黒田前監督と相通じる部分でもある。
準々決勝、鹿児島城西戦の前日。
コーチ陣に「大迫勇也くん(鹿島入り。今大会10得点の新記録で得点王)
はすごい。もし、大差で負けていたら、"あいつ"出すかもしれんよ」と選手起用のパターンをいきなり切り出した。
「まだ、"あいつ"出てないし、3年間、よく頑張ったからね」
こんな話は、山ほどある。
「彼を出せてよかった。いい引退試合になった」
「あと一回、勝てばケガの具合もよくなっているし、ベンチに入れられる」とメンバー表片手に確認していくといった具合。
ゲームプランは、選手交代、しかも3年生を多く出すという部分に大半は占められているのではないかと思うほどだ。
迎えた1月5日、後半の途中で0-6。
試合は本当に、一方的になってしまった。
私はの興味は、栫監督が3人目の最後の交代枠をどう使うかに絞られた。
そして、前日、離していたとおり、"あいつ"を起用した。
その瞬間、ある光景を思い出した。
今から7年前、滝川第二は、選手権の2回戦で静岡学園という強豪に0-5で大敗。
その試合、黒田前監督は、最後の交代枠で、県大会でもほとんど出ていない3年生を使った。
当時、20代半ばの私は、その日の夜、神宮球場近くのラーメン屋でまなじり決する思いでベテラン黒田さんに聞いた。
「なぜ、彼を出したのですか?」
「不思議か?あいつは、ホンマに3年間、黙々と頑張ったんだよ。それに応えてやりたくて」
その後、こう続けた。
「あー、悔しかったなあ。(沈黙)でも、"あいつ"を出せてよかった・・・」
あのラーメンの味を私は一生忘れない。
栫監督は就任直後言った。
「滝二の色は黒田さん、私、そして過去も含めたスタッフ全員の色なんだ。
だから、監督が代わったからといって、色は何も変わらない。
滝二は何も変わらない」と。
その言葉は本当だった。
伝統は、確実に受け継がれている。
"あいつ"は、すごいシュートを一本打った。
ベンチにいる栫監督は本当に悔しそうだった。
でも、ちょっぴり嬉しそうな表情に見えたのは気のせいだろうか。
数々のドラマを残して滝二の冬は終わった。
「湯浅さん、負けた経験は最大の教育指導と確信しました。
新チームもおもしろいですよ。今ワクワクしています。」と神戸に帰ってきた
栫監督は希望に満ちていた。
"監督も代わって滝二は-"、そんな声はいつの間にか消えていた。
2月1日、新チームの公式戦初戦となる兵庫県新人戦2回戦、滝川第二は8-1で快勝。最高のスタートを切っている。