103回目の“センシュケン”は、劇的なフィナーレとなった。
群馬・前橋育英がPK戦の末、千葉・流通経済大柏に勝ち、7大会ぶり2度目の頂点に立った。
今から10年前に埼玉スタジアムで行われた同カード(浦和・渡邊凌磨、G大阪・鈴木徳真、コベントリー・坂元達裕らが出場)を実況した筆者としても、ドキドキハラハラの展開。
山田耕介監督にも当時、取材で色々お世話になったので、「高校サッカーはすばらしいもの」という優勝インタビューには感動した。
|「きっかけは“センシュケン”での活躍」
時計の針を約1年前に戻す。
102回大会、その前橋育英は2回戦で敗れた。当時2年生のオノノジュ選手や石井選手も先発出場していた試合、勝ちどきをあげたのは、兵庫・神戸弘陵学園だった。
「県内でも強豪のチームで2年生から全国に出られて、“センシュケン”の経験は大きかったです」
声の主は、神戸弘陵学園・石橋瀬凪(いしばし・せな)選手。
卒業後、この春からはJ1湘南ベルマーレでプレーをする。
「3回戦の鹿児島・神村学園戦では、唯一の得点を挙げられましたし、高校からプロを目指すという大きなきっかけとなりました」
石橋選手は、兄・莉玖さんの影響で、小学1年生から地元・神戸市の駒ヶ林FCでサッカーを始めた。
その後、ヴィッセル神戸の下部組織でプレー、高校は、“センシュケン”12度の出場を誇る県内屈指の強豪校に進学。
3年時の予選では、ベスト8で敗退と惜しくも涙を飲んだが、持ち前のスピードを評価され、昨年はU―18日本代表にも選出された。
|「土台は“3つのポイント”」
石橋選手の大きな魅力として、関係者が口を揃えるのがドリブル。
いかにして、その土台は築かれたのか。
その答えは3つのポイントに隠されている。
① 原点は“公園”
石橋選手にとって、自宅から徒歩圏内の公園が“主戦場”だった。
“とにかくドリブルが好きだった”という少年が、マーカーを所狭しと並べて、ひたすらドリブルを繰り返す日々。
小学生の頃から、週に4日は通い詰めた。
時には夜1人で、また時には父・勇人さんとマンツーマンで。
「父に色々教わることもありましたし、公園での練習は楽しかったです。今(取材時:2024年12月)でも、行きますよ。学校に来ない期間は、よく練習しています。僕の原点と言える場所ですね」
② “砂走路”での特訓
神戸弘陵学園のグラウンドには、”砂走路“と呼ばれる砂を敷き詰めたエリアがある。
OBの江坂任(現・J1岡山)がJリーグに入団した際の育成費で作成したものである。
小学生で通用したスピードが、ヴィッセルJrユースではストロングポイントにはならなかった。
レベルアップのために必要であったのが、ここでの自主練だった。
「結構、“やりすぎやろ”レベルで(笑)取り組んでいました。1年生の頃は、公式戦の前日でも、3往復を20本とか。1人ではやらず、いつも3~4人で。みんながいるんで、やっぱり“負けたくないな”という気持ちを常に持っていましたね」
徐々に成果が現れる。
「はっきりしたデータはないんですけど、試合で抜けるぞっていう感覚が出てきた。あとは、周りから“速くなったぞ”って言われることが明らかに増えました。それが、自信につながりました。砂走路での練習は、本当に大きかったです」
③ 編み出した“秘技”
憧れの選手は、宇佐美貴史(G大阪)選手。最近、動画で視聴回数が多いのは、三苫薫(ブライトン)選手。
だが、プレーの真似をすることは皆無という石橋選手。
中学時代も高校時代も、壁にぶつかる度に、自分自身で考え、鍛錬を積み重ね、乗り越えてきた。
「今、自分が持っているドリブルの形も、試行錯誤して、最終的に見つけた形です。色々な選手の特徴も見ましたけど・・・」
長所をレベルアップさせるため、チームメートの協力を仰ぎながら、1対1の練習を繰り返す。その日々が、さらなる飛躍につながった。
「友達にくっついてもらって、練習して、自分で抜ける形を見つけて、それをさらに磨くという感じの毎日でした。大切なのは、体重移動とタイミングだと思います。どのタイミングで、どの方向に行くか・・・まだまだですけどね」
取材時間はおよそ1時間。その間、一つ一つ言葉を絞り出すように紡いでくれた石橋選手。
|「“湘南との縁”は大きなチャンス」
湘南入りと聞いて、個人的には、楽しみなチームとの縁だなと思った。
昨年15位に終わった湘南だが、山口智監督のもと、若手選手が大きく飛躍した1年だった。
中でも、J1リーグで初の2桁得点をマークした福田翔生(東福岡)・鈴木章斗(阪南大高)選手をはじめ畑大雅(市立船橋)・鈴木淳之介(帝京可児)選手ら、主力に高体連サッカー部出身の選手が多い。
「もちろん自分の実力次第ですが、若い選手も多いので、いいチームというか、自分自身にも合っているかなという印象です」
そんな石橋選手の1年目の目標とはー。
「“結果”です。目に見える“結果”にこだわりたい。得点とアシスト。チャンスは少ないかもしれないかもしれないですけど、結果を出して、試合に出続けたいです」
高校時代、彼のプレーを見ていると、いつも“ワクワク”させられた。
スタジアムに詰めかけた多くの観客が、その思いを共有する日を、今から心待ちにしている。
<プロフィール>
石橋 瀬凪(いしばし・せな)
2006年4月22日、兵庫県・神戸市生まれ。18歳。駒ヶ林FCで小学1年時からサッカーを始め、小学4年時からヴィッセル神戸Jrに所属。中学時代は、ヴィッセル神戸Jrユースに在籍。神戸弘陵学園では、2年時・3年時の全国高校総体、2年時の全国高校選手権に出場。最終学年では、チームのエース背番号「10」を背負い、U―18日本代表に選出された。179センチ、67キロ。右利き。
(サンテレビ 湯浅明彦)