頑張れ!

「僕はチームで一番下手なんだという思いで一生懸命頑張ってきました」
この言葉を聞いたのは、彼が滝川第二高校3年の頃だった。
チームの主将でエースストライカーが何をと思ったが、心にしまっておいた。

あれから4年、彼の母親・富美代さんは
「いつもお家に帰ってくると楽しそうにサッカーの話をしていました。
"みんなサッカー上手いし、でもすごく楽しいねん。俺下手やと自分でも分かっているけど、ホンマ楽しいねん"と」と振り返る。

そうか、本当だったのか・・・。

彼とは、岡崎慎司。
昨年のこのコラムでも紹介したが、奮闘のかいあって北京五輪男子サッカー日本代表に選ばれた。

確かにテクニックがすごくあるという選手ではなかったが、それほど謙虚にサッカーに取り組んでいたのかと今更ながら驚いた。

高校の2年先輩、元主将の金大慶さんも
「慎司はどんな他の選手よりも素直。かつ、人から言われた事を自分なりに噛み砕きそれをすぐに実行する能力のある選手でした」と岡崎を評した。

一方、2年後輩、こちらも元主将の山本翔太さんは
「慎司さんは、同じ寮生活をしていたので風呂場などで一緒になることが多く、でも決して先輩面することなく話しかけてくれました。いつもおもしろいことばかりしていてみんなからよくいじられてもいましたけど!」と笑う。

あれは高校2年の冬の選手権。県大会決勝、市立尼崎戦。
舞台は現在のホームズスタジアム神戸。
ケガで予選に1試合も出られなかった彼は、後半からようやく出場。
ロスタイム。同点ゴールを決めた。
それは、バーに当たり、そのままゴールに飛び込むという際どいものだった。
当時の黒田監督(現ヴィッセル神戸普及育成事業本部長)は言う。
「普通、あーいうシュートはバーに当たって、前に、つまりペナルティエリア内にいくんだけどねえ。あれが入るというのが彼の取り組んできた姿勢だろうね」

先日の地元神戸での五輪壮行試合。舞台は今度もホムスタ神戸。
後半途中から出場した岡崎は、後半44分、得意のヘディングシュート。
ポストの右に外れるか入るか微妙なシュート。またもや、ゴールネットに突き刺さった。
この試合、彼が放った唯一のシュートは、決勝ゴールとなった。

試合後、「市尼戦のゴール思い出しました」と言うと、静かな笑みを見せた岡崎。

常に謙虚で、チームメートからも愛される性格で、ひたむきにサッカーに取り組んできた
彼に神様が与えた大きなプレゼントが、今回の五輪という舞台ということなのかな。

「世界No.1ストライカーになる」が彼の夢だった。
それは今も変わらない。
アメリカ・ナイジェリア・オランダの3つと予選で戦う今回の男子日本代表。
岡崎がこの錚々たる世界の強豪相手にどういうプレーを見せるのか。
出場時間はそれほど多くないかもしれない。
でも彼は全身全霊を尽くして戦ってくれるだろう。

「北京五輪というステージは誰にでも与えられるステージではないのです。
誇りと自信と熱い気持ちを藻って、世界中の人々に夢を与えてください」(金さん)
「同じチームでプレーしていた先輩が日の丸を背負って戦うことを誇りに思います。
五輪でも慎司さんらしくひたむきに"チームのために"ということを忘れずに戦ってほしいです」(山本さん)

二人をはじめ、今まで支えてくれた人に慎司が恩返しをする番だからー。

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