〈4/12 阪神 2-3 中日(甲子園)〉
勝:松葉
S:松山
敗:西勇
9回表。藤川監督はマウンドに工藤を送った。
工藤は9日のヤクルト戦で二番手で登板したがアウトを一つしか取れず敗戦投手となっていた。
甲子園での2点差だ。工藤次第でゲームは良くも悪くも、決まる。
ビハインドの展開とはいえ重要な場面での起用に、スタンドからはどよめきが起こった。
中には懐疑的なものもあったかと想像するけれど、そればかりではなかったようにも思う。
やり返せという後押しと、この重要な場面で工藤に任せた藤川監督への感嘆と。
しかしそう単純にうまくはいかなかった。
二者連続四球で無死1,2塁。
前回登板でのストライクが取れない焦りを、まだ引きずっているようだった。
なんとか3人目の板山をダブルプレーに打ち取り二死3塁。これで落ち着くかと思ったが、4人目の駿太への1球目がまた大きく外れた。
キャッチャーは坂本。
工藤へボールを投げ返し一度座りかけたが、思い返したように審判へ断りをいれ、工藤のもとへ駆け寄った。
キャッチャーがマウンドに行くにも限りがある。だが坂本はここだと察したのだ。
坂本は少し笑顔も見せながら少し長めに声をかけて持ち場へ戻った。
「こい。大丈夫。」そんなふうに大きく頷いてみせてから座るとまた一つ頷いた。スタンドからは大きな拍手が沸き起こった。
満員の甲子園が工藤に勇気を送った。
坂本はわざと跳ねるようにして座って大きく構えた。
さぁ行け工藤!2球目投げた!ボールはストライクゾーン!
155キロの直球にバッターの駿太はファウルにするのが精一杯。
坂本はこぶしを作って工藤へ向けた。それだ、と。
続く3球目も拍手の中。同じく155キロのストレートでファウル。
そう。工藤はファウルでカウントを作れるだけの凄いボールを投げられるのだ。1-2。
そして4球目は首を振って変化球。首を振れのサインを入れたかもしれない。
これがわずかに外れカウント2-2。
一球一球、投げるたびに拍手が沸き起こる甲子園。
誰もが、坂本の構えるミットへ工藤が投げ切るのを見守った。
さぁ勝負。
坂本の柔らかな表情、いつもより大きなアクション、工藤は坂本を信じて、自分を信じて、腕を振った。
空振り三振!3アウト!!
坂本ガッツポーズ!!
スタンドからは大きな歓声と拍手。
工藤は両手で頭をおさえ少しうつむいて感極まるのを制止した。
ベンチで坂本からポンと肩を叩かれた工藤は唇を噛みしめた。
目元が潤んだように見えたのは気のせいではないかもしれない。
流れを引き寄せたこの裏は、1点差に詰め寄る攻撃を見せてくれたが、ゲームはここまで。
試合は勝てなかったけれど、ただで負けたとも思わない。
今日の工藤と坂本のバッテリーと、甲子園の万雷の喝采は忘れないと思う。