31杯目「松岡商店」

創業85年の老舗酒屋のしゃれた角打ち

JR新長田駅南側出口から線路沿いに東へ数分、若松町2丁目に松岡商店はある。祖父が若松町で開業して85年ということなので、逆算すると昭和10(1935)年ころに創業したことになる。阪神淡路大震災まで久保町で営業していたが、甚大な被害があり震災後、創業の地・若松町に戻ってきた。

株式会社化している松岡商店は三代目になる社長の松岡弘樹さん、奥様、そして従業員の皆さんが暖簾を守っている。業務店への卸と小売主体だった店に変化が訪れたのは、酒屋の一角で立ち飲みすることを表す”角打ち”が一般的になってきた数年前のことである。

切っ掛けは社長の弘樹さんが東京で角打ちに立ち寄ったこと。「普通の角打ちに入ったんですけど、これやったらうちでも出来るなあ」と思い、店の一角を立ち飲みスペースに模様替えした。東京の角打ちを視察したからなのか、アテは缶詰や乾き物だけと言った古典的な角打ちではなく、女性も入りやすいおしゃれな空間になっているのだ。

店内を見渡すと、全国の日本酒の銘柄が冷蔵庫で冷やされているかと思えば、地元兵庫県の酒の棚もある。天井近くには取引のある蔵元の説明がしてある。筆者がわかるのは竹泉、都美人、るみ子の酒といったところで、ほとんど初めて名前を見る蔵のオンパレードだ。
酒屋だから日本酒、ワイン、焼酎と売るほどにあるのは当たり前だが、松岡商店のラインアップはすごいのだ。ワインは日本産に力を入れているそうだ。”百聞は一見に如かず”と古くからの伝え通り、まあ一度行って見なはれ。

立ち飲みコーナーにはフードメニューが貼ってあるのだが、これがまた魅力的な品々である。例えば、メゾンムラタ(*)のパン&きのこペースト、酒かす調味料~糀はな~きのこパワグラタパン、黒毛和牛A5ランク牛すじ煮と言った具合である。どれを選んでいいかわからない場合は、おつまみセット3種がよいかもしれない。あるいは料理人ではないが、料理の研究をされている奥様に相談するのがベターと思う。

午後4時半に入店したものの、お客さんはまだ見えない。我慢できないカメラの福田さんが”飲み比べ+おつまみセット”を注文したので、筆者も安易に同じものを選んだ。酒3種は奥様におまかせで選んでもらった。2人分で6本の瓶がカウンターに並んだ。

覚えているものを列記すると、大分県浜嶋酒造の鷹来屋原酒生酒、三重県元坂酒造の酒屋八兵衛しぼりたて新酒、兵庫県朝来市の田治米合名会社の竹泉の神戸限定酒、福岡県久留米市杜の蔵の槽汲み、京都府向井酒造の京の春、竹泉のJUNMAI NOUVEAU(これは松岡商店限定酒だったかなあ)。いずれの酒もうまくてすいすい喉を通っていく。そしておつまみも酒に負けてはいない。

奥様に「どこからのお客さんが多いか」と聞いたところ、動線が違うのか新長田駅からよりも、店の東方面にあるゴム・靴関係の会社や車両を製造している会社にお勤めの方が仕事帰りに寄られることが多いそうだ。

そうこうしていると筆者の知り合いであり「六甲山シーズンガイド春・夏」など六甲山の著書が多数あるフリーライターで山ガールの根岸真理さんがお客さんとして突然現れたのにはびっくりした。仕事で新長田に来たついでに、かねて聞いていた松岡商店に立ち寄ったそうだ。その後、ふらりと現れた二人連れの1人が根岸さんの知り合いで更に驚いた。神戸は狭い。こういうことが度々起こるコンパクトな都市である。

根岸さんはビールとメゾンムラタのパン&きのこペーストを注文。たいへん気に入った様子で、パンに合うはずと、ワインを追加された。一方、福田さんは気になっていた竹泉の超限定樽生純米生原酒と熊本チーズ盛り合わせを注文し、ビールサーバーならぬ日本酒サーバーから注いでもらっていた。この日本酒サーバーは初めて見たのだが、竹泉以外で例はあるのだろうか。

根岸さんがムラタのパンをお裾分けしてくれたのでビールを追加注文した。ビールも数が多くて選ぶのが難しいのでギネスのタウトと無難なものに落ち着いた。もっとも奥様に好みを伝えて選んでもらうこともできる。最後は筆者もやはり日本酒サーバーから樽生純米生原酒を注いでもらった。

時間とともにお客さんも増え、近くの方にお聞きすると西代方面に会社があって、徒歩で南に下ってきたとか。もう3回くらい来ているそうで、そういう方は「飲み比べ1カ月間使い放題パス1500円」を使うと3回で元が取れるのだ。

松岡商店では店内での「燗酒の飲み比べ」や「立ち飲みの貸し切り」の他、店の内外で定期的にイベントを開催(共催含む)しており目が離せない存在になっている。例えば丹波ワイナリーツアー、垂水のイタリアンレストランAeBとのコラボ、KOBE日本ワインフェス2020などなど。
いまのところダーク状態になることもなく比較的ゆったりと飲むことができる隠れ家的な存在のように思える。人に教えたくない店の一つかもしれない。

最後に奥様にとって角打ちとはどういう存在かを聞いてみた。「飲んで食べて、食事と一緒に酒を楽しむ体験の場」になればとのことである。試飲だけではピンと来なくても、もう少し踏み込んでもらえる体験の場にしたいそうだ。今までの角打ちのイメージを払拭する、女性でも気軽に入れるおしゃれな空間が待っている。

「筆者注」
(*)メゾンムラタは知っている人は知っている和田岬の笠松商店街にある人気のパン屋である。
また支払いは注文の都度払うキャッシュオンデリバリー方式となっているので注意して下さい。

「松岡商店」
神戸市長田区若松町2丁目2-8
TEL078-611-0388
営業時間 立ち飲み 15:00~20:00(平日)
15:00~19:00(土曜、祝日)
酒売り 9:30~
定休日 日曜

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