11杯目「石本商店」

「賑やかだったころの新開地に思いを馳せて」

兵庫区は中道通から大開通に戻ります。かつて西脇商店で教えてもらった川崎酒店と石本商店が今も大開通で営業しています。まず近い方の川崎酒店に伺って取材の許可をもらいます。取材日も決まって安心していたら、ケータイに着信音が鳴り響きます。なんと川崎酒店の女将さんから断りの電話でした。「息子が写真アカン言うてますねん」と。汚れて見えても写真に撮ったらレトロ感が溢れていい風情ですよ、と言っておいたのだが、無理は禁物、引き下がるしかありません。

こう言うこともあるさ、ケセラセラ。と言うことで今日の石本商店訪問となりました。
11年前のある日のこと、著名な百人の作家が出品している「音箱展」が新開地のアートビレッジセンターで開催されていました。音箱展を見終え、新開地から大開通の散策をしている途中で、神鉄ビルの南側、冷麺が美味しいと評判の宝楽の手前の石本商店で角打ちしていることを発見したのが、そもそも石本商店との出会いでした。

その一週間後の早い時間に再訪問させていただいた。創業が戦前からなのか戦後なのか、女将さんもよくは分からないとのことであったが、今回確認してみると昭和31(1956)年か32年らしいことが判明しました。60年を超える老舗になります。店名に商店がつくことから分かるように酒販売とタバコ販売を営んでおられます。

店はご主人の石本仁さん、奥様のさち子さんのお二人で切り盛りされています。いつもながら感じるのですが、酒屋を取り巻く環境が劇的に変化をし、業務店への配達は継続されていますが、個人宅はほとんどないとのことです。

街の小さな酒店の角打ちにお客さんが押し寄せることなく、一日が過ぎてゆくようです。40~50代のお客さんが多いそうで、「健康のため、規則正しい生活のために店を開けているようなものです」と女将さんは笑います。若者が酒を飲まなくなり、商売あがったりと嘆いても何も始まりません。新開地が賑やかだったころの話をしていただきました。

新開地と言えば本通にチャップリンの帽子を模したゲートがあるように映画の街でした。石本商店の近くにロマン座という映画館があり、映画を見終えたお客さんが帰りに立ち寄られ、真夜中の2時ころまで店は繁盛したそうです。三角公園のところにリリックという画家や文化人が集まるバーかカフェのような店がありました。その店のことを尋ねるとご主人は覚えておられました。この店のほか24時間営業の公園食堂もあったようです。

時は移り、市役所が移転し、神戸の中心が三宮になった頃から新開地の没落が始まります。ご主人は「街には多少とも闇の部分が必要で、それが賑わいを誘う」とも言います。現在進行中のモトコーの立ち退き問題と重ねると共通する部分が多いように思います。

さて、女将さんは、かつて地元のサンテレビの「ハロー神戸」に出演した思い出を語ってくれました。「ハロー神戸」は阪神淡路大震災の後、無くなりましたが桂小米朝さん(現、五代目桂 米團治)がMCをしていましたので年配の方にはご記憶にあるかも知れません。女将さんは話題豊富な方で退屈することはありません。

そうこうしていると40年来の常連さんが姿を見せました。勝手知ったお客さんのこと、黙っていても酒かビールが出ます。筆者とカメラの福田さんもビンビールとゆで卵を貰います。常連さんとも気軽にお話ができましたが、やはり角打ちは地域の歴史や情報が分かっていいなあという結論に達しました。

震災後に店を改装し、酒小売スペースの左手の比較的狭い場所が立ち飲み空間となっています。立ち飲みの看板酒は白鶴、アテはどれも200円と安く明朗会計です。11年前に来たときにカウンターの奥にノートパソコンが見え時代の象徴だと思ったものです。機種は違えど今もノートパソコンが置いてあります。

閉店間際に石本商店に行ったことがある友人によれば「どうぞどうぞと店の中に招いてくれ、こんなものしかないけどと、片付けていた惣菜をまた出してくれた」そうです。

こういう話を聞くにつけ、いい店の姿が浮かび上がって来ます。ワンコインで気軽に立ち寄ることができる店は、そう多くはありません。新開地に行かれたら、ぜひ一度覗いてほしい店です。

「石本商店」
神戸市兵庫区大開通1-1-3
TEL 078-575-5626
営業時間 7:00~20:00 祝日営業
定休日 日曜

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