第17回 私の記憶に残るあの試合③ ~2016年7月8日 藤浪投手が8回161球の投球~

広島 3 1 1 0 0 0 0 3 0 8
阪神 0 0 0 2 0 0 0 0 0 2

先日、福留選手のサイクルヒットの試合について書かせていただきましたが、その試合よりも前のことです。この時期もまだ中継車Dになったばかりの試合でした。よって、まだ私が試合を追うことに精一杯の時期です。

金本監督が就任し、「超変革」を掲げてスタートしたこのシーズン。もちろん優勝を目指すにあたって監督が投手陣を引っ張る選手と期待したのは、開幕投手のメッセンジャー投手と、前年に14勝を挙げた藤浪投手でした。2016年は6月の交流戦でのイーグルス戦で完封勝利、ということがありましたが、それ以来勝てていない中迎えたのがこの試合です。

好調のカープ打線に対し、藤浪投手がどのように抑え、再び勝ち星をつかめるのか?というところをテーマに中継を進めましょう、という話を打ち合わせでしていました。とにかく藤浪投手をフィーチャーし、映すということを行いました。

初回、先頭の田中選手にフォアボールを与えました。だいたいこういうときにはベンチの首脳陣とピッチャーを対比させる映像を撮ることが多いです。金本監督の映像になりましたが、特に表情は変わりありません。試合後の監督の談話で「先頭からフォアボールだと…」という話がありましたが、中継時では特に気がつきませんでした。その後ヒットやフォアボール、さらにはダブルスチールを許すなど3点を奪われます。2アウト1、3塁でダブルスチールを許した場面の直後の監督の表情は硬い表情でした。これに対しての怒りはあるのかなとは思っていました。

その後、2回と3回に追加点を許しますが4回と5回は三者凡退に抑えるなど徐々に藤浪投手は立ち直りました。7回までに奪三振は12個で、被安打は4、球数は131球でした。7回の裏の攻撃で藤浪投手に打席が回ってきます。原口選手の打席でネクストバッターズサークルを映すと、そこには藤浪投手がいます。「藤浪がそのまま打席へ入ります。」と実況アナウンサーは伝えてくれました。
それまでも藤浪投手は150球を超える投球があった試合も過去にありましたし、このシーズンも140球以上を投げた試合が既にありました。また、翌週にはオールスターもあり、この日の投球で藤浪投手の前半戦は終わりということでもう1イニングを投げるのも「そういうものなのかな。」と思っていました。

8回のマウンドに立った藤浪投手は先頭のルナ選手にヒットを許しますが、代走の赤松選手の三盗を許さず、2アウトランナー無し、しかしそこから鈴木誠也選手にデッドボールを安部選手にもヒットを打たれます。この時点で147球です。いつもならベンチから香田投手コーチが出てきてもおかしくない場面ですが、全く動きません。このことに気づいたカメラマンさんから「全然ベンチが動かへん。」と連絡線で話がありました。そのときにやっと「これはただ事ではない。」と思いました。結果その後ヒットなどで3点を失いましたが、この回を投げ切り161球で降板となりました。

「これはただ事ではない。」ということにいつ気づけるのかが中継をしてるときに必要な嗅覚だと思います。私はその瞬間まで気づかなかったわけです。実際に8回の金本監督の表情はすごく厳しいものでした。ただ、それに早くから気づいていたらどうしていたでしょうか?金本監督と藤浪投手ばかり映していてもパターンはありませんし、これでは金本監督がただの怖い人で、藤浪投手が怒られて投げてるようにしか見えません。そんなことではお二人の真意を伝えられないのでいけません。自分なら「とにかく頑張って投げ続ける藤浪投手」のみをフィーチャーしたでしょう。実際に中継でも結局はそのような形にしました。

仮にベンチで監督がものすごく怒っていたり、選手が怒られてしょぼんとしていたり、とします。監督や選手が試合中に感情をあらわにする、ということはほぼありませんので、「事実を伝える」という部分で映すことはある意味必要だとは思います。しかし、私の場合、笑顔などはいくらでも映すべきだと思っていますが、怒りの表情や悲しみの表情などは「怖い」とか「かわいそう」とか思ってしまいます。そうなるとあまり長く映したり、しつこく何度も映したり、ということができないのです。

このある意味私の「優しさ」が中継を邪魔しているのではないか、と思うことがあります。私がスポーツ部に異動し、色々なことを学んでいく中で、中継というのは「何を映すのか、何を映さないのか」という判断をしないといけない、ということを教わりました。私が監督の怒りの表情や悔しさをにじませた選手の表情を映すことがなければ、視聴者の方々は監督が怒っていたのか、選手が苦しんでいるのかどうかわかりません。

昨シーズンもミスに対して矢野監督が試合中に選手を注意した、という場面が二度ありました。二度とも私が中継車Dの試合でした。注意している場面を意図して映さない、というのは中継をするにあたり、してはいけないことだと思います。「こういう事象がありました」ということは伝えるべきです。ただし、注意を受けた後にその選手が悔し涙を流したシーンがあり、これを見ているとどうも「かわいそう。そりゃ悔しいよな。」と思ってしまい、無理に映すのをやめました。ちなみにカメラマンさんはその姿を撮り続けていました。

現在、喜怒哀楽の表情を出す選手は少なくなっていると思います。そういう選手の表情を見て、視聴者の方は感情移入をし、「もっと頑張ってほしい!」と応援してくれる方が多いと思います。そういう意味では、私がその姿を見せないことによって「もっとこの選手を応援したい!」という思いを奪ってしまっているのかもしれません。もちろん「いつまでも映したら気の毒やろ!」と思われる方もいると思います。

正直今もどうするべきか答えは見つかっていません。今年もそのような場面に遭遇するかもしれません。そのときに自分がどういう感情になるのか、そこはシミュレーションしたいとは思っています。ぜひこのコラムを読んで下さっている皆さまの意見をいただければと思います。

長くなってしまいました。次回も「私の記憶に残るあの試合」ということで、昨年の試合から1試合ご紹介したいと思います。「近本選手のあのホームランをどう映すべきか?」どのホームランの話でしょうか?お楽しみに!

虎ギャル応援日記より
(当日の日記へのリンクはこちら)

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