村井本部長「私もユーチューバーなんです」

編集をする村井紀之さん(提供:村井さん)
その名も「青森応援AOチャンネル♪」。YouTubeで青森への愛にあふれた音楽が公開されていて無料で聴くことができる。この音楽を作詞・作曲し、配信しているのが、元青森県警本部長。現在、兵庫県警の本部長として警察官や職員約1万3000人を指揮している村井紀之さん(55)だ。
歌詞とメロディーが青森で突然舞い降りた…

YouTubeチャンネル 青森応援AOチャンネル
兵庫県伊丹市出身。2023年3月、故郷兵庫県の県警本部長に着任した。東京大学法学部を卒業後、1990年に警察庁に入庁し、警察庁交通指導課長や大阪府警生活安全部長などを経て、2019年8月から2年間、青森県警の本部長を務めた。縁もゆかりもない土地だったが、青森県の自然や食、人情に魅了された。 学生時代、バンド活動に打ち込んだ村井さん。警察官になってからは、仕事に専念することで、次第に楽曲制作をすることはなくなっていった。しかし、青森県警本部長時代、ふと歌詞とメロディーが舞い降りたことがあった。2021年春、青空がきれいな晴天の日のことだった。村井さんは、青森市にある八甲田大橋を渡り、ショッピングセンター「サンロード青森」まで徒歩で買い物に向かっていた。すると、自然と歌を口ずさんでいた。突然のことだった。
【「青い森のむこうに」の歌詞の一部】
『この青い森のむこうには 新しい何かが待っているはず』 『この青い森を包み込むように あたたかな風が流れ始めた』
「捜索」だけではなく「創作」意欲が次々と

2023年兵庫県警本部長の着任会見
歌詞付きで湧いてきたメロディー。村井さんはパソコンで音源化することにした。自らの声を入れるのではなく、「ボーカロイド」という歌声を合成するソフトを使って歌声をつくり、曲を完成させた。YouTubeで配信されている動画も村井さんの手作りだ。アニメーションソフトを使ってキャラクターが歌う様子の映像や、青森港や浅虫温泉など自身が撮影した青森の写真を映像に盛り込んでいる。村井さんは、なぜか青森ではその後も次々とメロディーや歌詞が湧いてきたという。青森の青い「森」の歌を作ったので、次は、「海」と「空」ではないか。そこで、「青い森のむこうに」「青い海のように」「この青空の下で」の計3曲をつくった。
青森応援ソング配信のきっかけ 同じ趣味の仲間との出会い
2019年の御用納めの日、数人との飲み会の場で、30代の青森県庁の職員と意気投合した。聞くと、パソコンで音楽を作成するDTM(デスクトップミュージック)をやっているという。飲み会を重ね、お互いの作品を披露し合う仲になった。それまでDTMに取り組む友人がいなかったのでとても励みになった。このご縁をきっかけにその後も、青森応援ソングやミュージックビデオの制作のアドバイスを受けるようになった。
自身の楽曲「AO1:青い森のむこうに」の制作作業をしていた2021年の初夏、警察学校で春に採用された初任科生約50人に訓育と称して講義を行った。「実は青森をテーマとした曲を制作している。完成したら諸君にも聴いてもらいたい」と伝えた。しかし、8月に人事が発表され、青森を離れることになった。内閣官房内閣審議官として東京へ。その後、曲を聴いた初任科生たちから、たくさんの感想が送られてきた。警察学校で、ある日の朝、「青い森のむこうに」の音楽が予告なく全館放送されたと聞き、村井さんはとてもうれしかったそうだ。

青森県前知事 三村申吾さん(2020年サンテレビの収録)
当時青森県知事だった三村申吾さんに自身の曲を収録したCDをプレゼントしたことがある。5期20年知事を務め、2023年6月に退任した三村さんは、サンテレビの取材に対して「音楽から青森愛が熱烈に伝わってきた。村井さんは本当に青森愛が熱烈だ。ますます燃えているね。青森のことを兵庫から世界に発信してくれている。秋は紅葉の最高のシーズンだから、歌を聴いて世界中の人が青森に来てくれたらうれしい」と感謝の気持ちを語った。
青森に恩返しを!YouTubeで音楽を公開
「青森応援AOチャンネル♪」のYouTubeのチャンネルを作成し、動画を公開したのは2022年8月。青森県警の元本部長がYouTubeで青森を応援する音楽を配信していることは、地元紙でも取り上げられた。記事になったことで、一定のアクセス数があったという。その後も、津軽の冬を切なく歌った「白い雪の中で」、弘前の桜を想った「想い桜」、青森ねぶた祭の4年ぶりの通常開催を祝った「限界まつりうた」など、計6曲を作成し公開した。
楽曲制作については、個人の趣味でやっていることなので、兵庫県警の部下にはあまり語ることはないという。県警本部長として容疑者を「捜索」し、自宅では音楽を「創作」する村井さん。これからも青森への感謝の気持ちを込めて、趣味で音楽づくりに励むつもりだ。一方、地元兵庫の音楽づくりの予定を聞いてみたが、8月の取材時点では、「もし何か浮かべばつくるかもしれない」と可能性を語るにとどまった。しかし、村井さんはその後、神戸で撮影を決行。淡い恋を切なく歌い上げるバラード「君が通りすぎてゆく」を9月にYouTubeで配信した。村井県警本部長の創作意欲もとどまらない。
文:サンテレビニュースキャスター(元青森民放局アナウンサー)藤岡勇貴