台風21号から5年 阪神間や関空などに暴風・高潮被害~災害時の船の活用~

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暴風や高潮など兵庫県内でも大きな被害をもたらした2018年の台風21号から9月4日で丸5年です。災害時の船の活用について取材しました。

 

2018年9月4日台風21号の暴風と高潮 提供:矢野吉治さん

25年ぶりに非常に強い勢力のまま上陸した2018年の台風21号。神戸市に再上陸し、神戸では最大風速34.6mを記録しました。神戸では、1961年の第2室戸台風を超える2m33cmの高潮を記録しました。

 

2018年9月4日記者リポート

「六甲アイランドではコンテナが流されています」

「(神戸市東灘区深江浜町)この奥をご覧ください。浸水しています」

 

関西国際空港の連絡橋 提供:関西空港海上保安航空基地

 

観測史上最大の高潮によって、港湾関連の施設にも大きな影響が。ライフラインの被害が大きく、各地で停電や断水。中でも関西国際空港では甚大な被害が出ました。

 

2018年9月5日記者リポート

「こちらから滑走路を見てみますと、広い範囲で浸水しているのが分かります」

 

また、タンカー船が突っ込み、連絡橋が損傷。関空は陸の孤島となりました。当時の被害状況について国土交通省近畿運輸局の金澤重之さんは。

 

金澤重之課長

近畿運輸局自動車交通部 金澤重之 旅客第一課長

「タンカーが橋桁にぶつかって、下りの道路桁を4mずらしまして、その道路桁が鉄道桁にぶつかることによってさらにそれが50㎝ずれることによって、こちら側の下り線と鉄道が実質走れなくなった」

 

取り残された人たちは約7800人。連絡橋の片側が生き残っていたため、シャトルバスによるピストン輸送。神戸と関空を結ぶ船、神戸—関空ベイ・シャトルが帰宅困難者を島の外に輸送しました。

 

 

【もし連絡橋が壊滅していたら?】 

主な輸送手段は船しかありませんでした。

 

金澤重之課長

「鉄道、バスが止まってしまいますと、あと残されたアクセスは船のみになりますので。事前に想定をした上で準備をしておくことが非常に重要なことだと考えております」

 

 

神戸大学 井上欣三名誉教授

災害時の船の重要性や活用について提言してきた神戸大学の井上欣三名誉教授は。

 

神戸大学 井上欣三名誉教授

「大阪万博に関係してお客様たちの足を確保する大きなターミナルですよね。そこにあーいうことが起こったとすると、船をもっと活用するように元から考えておかないといけないなあと思います」

 

貨物船が頻繁に行き交う神戸港。神戸空港も空港島とポートアイランドを結ぶ連絡橋は1つで、同じリスクを抱えています。

 

 

1995年1月神戸港

【阪神淡路大震災でも船が活躍】

1995年の阪神淡路大震災でも阪神間の道路や鉄道が寸断され、神戸ハーバーランドと大阪の天保山を結ぶ航路が代替手段の1つになりました。

 

神戸大学 井上欣三名誉教授

「漁民の方々がそれは任せておけという感じで、協力していただきました。レストランシップとか小さい小型の船。神戸と大阪の間の行き来とか、宿泊所に使うというような動きとかそういうのに使われました」

 

神戸と小豆島や高松を結ぶジャンボフェリー。震災後、被災者に無料で船の中のお風呂を提供しました。

 

ジャンボフェリー 山神正義社長

「船長お風呂使わせてもらえないですかという話になって、船長は気前よくどうぞどうぞ使ってください。家族もいいですか、どうぞええからと。隣の人もいいですか?ええからみんな使ったらいいから。船長が食事が終わって外を見たら大行列。何千人という大行列ができていた」

 

阪神淡路大震災では、30隻の船舶が炊き出しや医療従事者、消防、インフラ復旧の作業員の宿泊施設になるなど、のべ6万人以上の生活支援を行いました。震災では、病院そのものが被災したり被災者は冷暖房が整っていない環境での避難生活を余儀なくされました。井上名誉教授は震災後、災害時の医療支援船の構想を掲げて実現に向けて動きました。

 

神戸大学 井上欣三名誉教授(2012年当時インタビュー)

「船を避難所として使う。支援の手が後回しになる難病患者さんや透析患者さんは、治療を継続できる仕組みをつくってあげなければいけない」

 

2020年ジャンボフェリーを使った実証実験

2020年には、ジャンボフェリーを使って負傷した患者を神戸から小豆島中央病院(病床数234の病床)まで搬送する実証実験が行われました。

 

神戸大学 井上欣三名誉教授(2020年当時インタビュー)

「船の中には冷暖房も効いているし、食べ物もシャワーもすべてそろっているのに、船をもっと使わないといけないのではないかと」

 

2020年1月の実証実験の後、行政などとの協定書の締結に向けて進んでいたその矢先、新型コロナウイルスの感染拡大に直面しました。

 

神戸大学 井上欣三名誉教授

「みんながその気になって集まったりしていたんだけれども、だんだんうまく集まれなくなった。協定書をつくろうということになったが、協定書そのものが感染症の問題で、途中で破談しているんです」

 

この実証実験をきっかけに、2023年2月、フェリーで航路が結ばれている神戸市と高松市、小豆島にある2つの町は大阪・関西万博を見据えて観光・防災面での協力に関する連携協定を締結しました。井上名誉教授が掲げる災害時の支援船に関しては明記されておらず、ジャンボフェリーは相談があれば応じるそうです。

 

ジャンボフェリー 山神正義社長

【写真7:ジャンボフェリー 山神正義社長】

「できるタイミングがあれば、また前向きに取り組んでいきたいと思います」

 

一方で、フェリーや高速艇の航路は、1998年に明石海峡大橋が開通後次々と廃止。震災当時と比べていざという時に活用できる民間の船は激減しています。

 

ジャンボフェリー 山神正義社長

「災害用に船を提供するような形はどの会社も非常に難しいと。ほとんどのフェリー会社が予備船がないと思います」

 

宿泊施設として民間のフェリーを貸し出すことは困難な一方、定期航路を使って負傷者の搬送は可能と指摘します。井上名誉教授は、事前に協定書を締結しなければいざという時に行動できない可能性を指摘。新型コロナの影響で途絶えた協議の場を再開し、協定締結に向けて動き出したい考えです。

 

神戸大学 井上欣三名誉教授

「船をいかに確保しておくか、それらの船をどのように使うか。協定書を結んでおかないと、みんなの思いが一緒でもいざという時に、この手順で動かないだろうなと。途切れたものをもう1度立て直す必要がある」

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