『PRINCE OF LEGEND』(宙組/宝塚大劇場)を観たヨー

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観たヨーシリーズ、今回は宙組『PRINCE OF LEGEND』である。

 原作はドラマであるという。LDHとのコラボであるという。

 LDHとのコラボとしては『HiGH&LOW -THE PREQUEL-』(通称ヅカロー)を履修したので大丈夫であろうと観劇に臨んだ。

 結論、色々予想を超えてきた。

 以下、予習をしていない未見の方に送る言葉だ。

 

 我々が挑むのは荒ぶる野生の裸馬を乗りこなすロデオだ。

 振り落とされるな食らいつけ! たてがみを掴め、太ももで馬体を挟め!

 なお、鞍はついていないのでそのつもりで。

 

 いや、ポスターに「トキメキが大渋滞!」という愉快すぎるキャッチコピーが躍っていたので覚悟はしていた。何かすっごいのが来るんだろうなと。

 お出しされたものが覚悟の斜め上をキリモミで急上昇していっただけだ。

 あらすじを引こう。

 

 王子……人々は尊く美しい男たちをそう呼ぶ。

 伝説の王子……それは王子の中の王子ただ一人だけが勝ち取ることができる栄光の座。

 これは伝説の王子になるべく、王子たちが闘う物語である。

 

 原作のキャッチコピーは「王子が大渋滞」だそうである。LDHお得意のヤンキーバトル漫画系の代わりに王子バトル漫画である。

 

 主人公は総資産数兆とも言われる朱雀グループ御曹司、人呼んでセレブ王子・朱雀奏(桜木みなと)。

 腹違いの兄であるヤンキー王子・京極尊斗とヒロイン成瀬果音(春乃さくら)の心を射止めるべく競い合うドキドキラブロマンス。

 なお、他に生徒会長王子・綾小路葵(鷹翔千空)、ダンス王子レッド(レッド!? 何か他にも色々メンバーカラーがある……)・天堂光輝(亜音有星)、先生王子・結城理一(風色日向)、美容師王子・嵯峨沢ハル(叶ゆうり)がライバルとして控え、更に各自の腹心? としてメガネ王子(大路りせ)やヤンキー王子弟(泉堂成)、SP王子(若翔りつ)や側近の美男子たちがおり……

 

 オッケー分かった! これは乙女ゲーの文法! 進研ゼミでやったやつですねアイシーアイシー!

 皆さん乙女ゲーすなわち乙女ゲームは嗜んだことがおありだろうか? 女性向け恋愛シミュレーションゲームを称して乙女ゲーム、乙女ゲーと呼ぶ。乙女が楽しむ乙女のためのゲーム、雅なネーミングだ。

 プレイヤーがヒロインの選択肢をその都度選び、豪華絢爛な美男子たちと結ばれることを目指すというのが基本のパッケージ。

 私の若い頃は『アンジェリーク』シリーズが全盛だったが、今どんなタイトルがあるのかは不勉強で存じ上げない。

 プレイヤーのどんなヘキにも対応するべくスタンダードタイプからクセ強タイプまでありとあらゆる王子を揃えているプリレジェも恐らく同じ文法だろう。

 プレイヤーが感情移入しやすいようにヒロインの主張が強くないところも「よく分かっている」。さりとて自我がないわけではなく、プレイヤーが自分の気持ちを乗せやすい自我なのだ。

 苦労人でちょっと気が強く素直じゃないところもあるが、毎日を懸命に生きている真面目な女の子。そしてかわいこぶってない(重要)。プレイヤーが自分を投影しやすいキャラ立てである。

 主人公・奏に突っかかるところの塩梅も素晴らしい、媚びていないがかわいげがある。

 女の子に突っかかられる経験などまるでナッシング、富めるセレブ王子としてキラキラ生きてきた奏の生々しいブラックな感情を引き出す。果音につれなくされて仕返しをしてやると復讐の炎をたぎらせる奏は、夢のキラキラ王子様を下りて年相応の等身大の男子になった。元がネガティブな感情を知らぬげなキラキラ王子なので、その落差が刺さる。いわゆる闇落ちというやつだ。

 だが、闇落ちになりきらない。傷つけてやると彼的には精一杯「悪く」企むのだが、どうしてもかわいい。

 そのチャーミングさがいわゆる「育ちのよさ」なのだろう。父親の朱雀俊哉(松風輝)はいろいろ勝手気ままだが、子育てには成功している。

 すれ違った二人がお互いデレて結ばれるところを見たい、と素直に思える喧々諤々が楽しい。

 

 しかしライバルの尊斗も男らしくて包容力があり、たおやかな奏とは対極のワイルドさが魅力。また演じる水美舞斗の筋肉が素晴らしい。特に上腕二頭筋。日替わり筋トレは実に見もの。

 力is パゥワー的な脳筋ぶりも愛おしい。

 この二人の間でも大概揺れるのに、上記の王子たちも参戦して果音を射止めるために(一部……いやけっこう例外あり)伝説の王子コンテストが始まっちゃうのである。選べるかこんなの!

 多分、メインの王子たちを全攻略したら隠しルートが開放されて弟や側近などサポート役の王子も落とせるようになる。

 更にサポート王子も全攻略した三巡目ではハーレムルートが開放されるはずだが、これは達成条件が難しい。全員の好感度を70以上75以下にキープした上でバレンタインの選択肢で『誰にもチョコレートをあげない』を選択をすると隠しイベントが発生し、バレンタインデー当日に果音が事故で怪我をして入院するルートに突入する。王子たちが入れ替わり立ち替わり見舞いに現れてさや当てを繰り広げ、果音に誰かを選べと迫る。ここで更に『誰も選べない』を選択すると、

 

「……でも、僕だけじゃなくて他の誰も選ばれなくてほっとしたよ」

「俺以外の誰かのものになっちまったらお前に何かあったときそばにいられねえもんな!」

「君はみんなのプリンセスだ!」

『プリンセスオブレジェンド、プリンセスオブレジェンド、AH―AH―AH―AH―』

 

……と全員のコーラスと共に果音を伝説のプリンセスとして全員で守っていくエンディングに到達する。いやいやマジで。私の脳内にはエンディングスチルまで見えているので間違いない。

 皆さんもぜひ全キャラの攻略ルートやイベントを妄想して楽しんでほしい。

 

 さて、個人的には雪組から異動した愛すみれと叶ゆうりも注目かつ楽しみなポイントだった。

 ファーストジェンヌが(間に合わなかったが)望海風斗サマだったこともあり、今の私の自認は全組観劇派の雪推しである。雪組から異動したこの両名の活躍ぶりは当然気にかかるところだ。

 叶ゆうり演じる美容師王子・嵯峨沢ハル、チョイ悪男のお色気がムンムンあふれて大変なことになっていた。王子たちの中で唯一チャラ系の属性なのでよく目立つし、そのポジションを活かしきっている。

 そして雪組きってのコメディエンヌとして名を馳せた愛すみれ姐さん、宙組でも凄まじかった。果音の通う聖ブリリアント学園の理事長、実相寺光彦役だ。無闇にキラキラした双子の秘書(鳳城のあん/波輝瑛斗)を従え、どっかのファビュラスな姉妹のようなドラァグ・クイーンたち(輝ゆう/嵐之真)を侍らせ、本人も性別を超えている。

 男でも女でもない、その名は実相寺光彦。

 実相寺は全ての属性を超越して存在し、美しきかなと面白きかなをこよなく愛し、要所要所でぶっ飛んだ世界観を支えてくれる。観客が正気に戻りそうになったとき「そうだそうだ、この人が理事長なんだから何でもありだった」と麻酔をぶち込んでくれる役だ。正気に戻るな現実的なツッコミは野暮だ。

 もしこの人が自伝を書くのならタイトルは『我が名は実相寺』で決まりだ。ぜひ読んでみたいので書いてほしい。

 

 考えるな感じろ型の良質なトンチキ作品である。私は自分がトンチキな作品を多く書いてきたのでトンチキは大好物だ。

 そしてトンチキを成立させる最大の肝もトンチキ作家として分かっているつもりである。

 

 照れるな怯むなどこまでも真剣にやれ。

 

 現実にあり得ないトンデモ設定なればこそ、一瞬でも怯めば世界観が崩壊する。

 ヅカレジェ、どこまでも真剣であった。ここで笑かしたろ、ここでウケたろ的なスケベ根性が全く感じられない。笑いはドッカンドッカンなのだが、どのキャラも自分の役をとことん貫いた結果としての常識のズレが結果的に笑いを生んでいる。

 

 愛すべき王子たちのそばには、王子を愛する女の子たちもいる。この女の子たちがまたいい。一途で一生懸命。彼女たちも想いが叶ったりちょっと報われたり、恋模様を育む。

 作品の主人公は奏と果音だが、他のプリンス・プリンセスたちに目を向ければそこに彼らが主役の物語が発生する。自分の脳内でいくらでも深掘りが可能。

 これぞ乙女ゲーの醍醐味であり、タカラヅカの醍醐味であろう。オペラを向ければ贔屓が0番、そのマインドを最大限に発揮した桜木みなとのお披露目作品であった。

 王子たちはそれぞれチーム分けが為されているが、引いて全体を見ればチーム新生宙組・堂々の船出だ。

 多くの人にこの愉快な作品が届いてほしい。

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