「トラ」。

ある日、ある人から、
「『あんたトラだねぇ~』ってひとの話があったら教えてほしい」
って注文をいただいたのでありがたく書かせてもらったのだけど、「枠」に収まらなかったようなので、こちらに載せさせてもらう(笑)

・・・
2008年クライマックスシリーズ第三戦。
場所は京セラドーム。
そらもう奇跡的ともいえるV逸の岡田阪神の最後の試合。

その人のことを「トラ」としとこう。
トラと私は面識がない。
ただ、座席が前と後ろだっただけだ。

トラは、感情をコントロールしない。
阪神ファンにありがちな、喜怒哀楽がそのまま、という非常にわかりやすい男だった。
まぁ、よくいるタイプだ(笑)
この日は内野席だった。
風貌は、ガンちゃん(岩本勉さん)に近い。

0-0のまま9回表。
マウンドには球児。
1死3塁、バッターは、D・森野。
緊迫の場面。

トラは森野の名を呼んだ。

「モリーノ!」
「モリーノォ!」

イタリアーノ!“の発音で。

「モリーノ!」
伸ばすところも、イントネーションも全部おかしい。
しかも、声がデカい!

あれは絶対森野に聞こえてる。間違いない。
私が森野なら、球児への集中力の半分ぐらいが、このわけわからん叫び声の主に向かうだろうと思った。

トラは、やめなかった。
「モリーノォゥ!」
トラは、次なる一言を放った。

「モリーノー!
肘、下がってんぞー!」

ブーッ!
(爆笑)
森野より先に、私が集中できなくなった。
気になる!
そんなん言われたら気になる!!

「右ひじっ!」
大事な場面、非常にこまかい。

「まだ下がってんぞー!
右っ
右ひじーっ!」

球児は森野を、セカンドフライにうちとった。
トラが勝った…
トラが小躍りしたのは言うまでもない。

「ガハハハー!!」

だが、トラの高笑いもここまで。
次の打者は、ウッズ。
そう…ウッズは、球児のストレートをホームランという形で粉砕して、岡田監督に引導を渡したのだ。

トラは怒りに狂っていた。
このあとの攻撃は私も覚えていない。
試合が終わったとき、トラの怒りは岡田監督へと向かった。

「なんでや!!なんで負けたんや!!お前なんかさっさと辞めてくれたらよかったんや!!」

悪態をつくトラ。
でも帰ろうとはしなかった。

ファンもまばらになったスタンドで、岡田コールが沸き起こった。

ライトスタンドからは
岡田~岡田~ 岡田!
岡田~岡田~ 岡田!
ホームラン!
ホームラン!
場外場外ホームラン~!
かっとばせー!岡田!

岡田のコンバットマーチ!!

トラは叫んだ。
「コラーー!!出てこい岡田ぁぁあ!!」
「言いたいこと山ほどあるんじゃぁぁあ!!!!」

トラの声に反応したとは1ミリも思わないけども、岡田監督が出てきた。
ファンが待っているからと、赤星が呼びにいったということだ。

コンバットマーチと岡田コールが止まない中で、ファンも選手も、大勢の人が泣いている。
私も涙がどんどん溢れ出て止まらなくなった。
仲間たち一人ひとりと握手をする岡田監督。

トラはまだヤジを飛ばしていた。
そして、
「文句言いに行ってくる!!」と言って、走ってスタンド最前列のフェンスをつかみに行った。

そして・・・

「ありがとぉぉーー!!
岡田ぁぁ!!
ありがとぉぉおーー!!」

泣きじゃくりながらグラウンドの岡田監督に向かってずっと叫んでた。
しばらくして振り向き、腕で涙をぬぐいながらこちらへ帰ってきた。

トラ友に、
「お前、文句言いに行ったんちゃうんか!!www」
と笑われると

「言えるか!そんなん、言えるか!!岡田…ウワァァーー!!(号泣)」

はばからず、泣いた。

・・・
喜怒哀楽のジェットコースター。
それが私の見た
あんたトラだねぇ~」って人である。

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