【特集】「罪から逃げないで」10年越しに伝えた言葉 心情等伝達制度 遺族の思いは

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  • 誕生日ケーキを作る濱口さん家族

  • 濱口望さん―写真右

  • インタビューに答える母・濱口雅子さん 父・榮俊さん

  • 心情等伝達制度とは

  • 伝達は関東の刑務所で行われた(イメージ)

  • 4月23日家族のもとに結果が届いた

  • 心情伝達結果通知書

  • 笑顔で写る濱口さん家族ー望さんは左

受刑中の加害者に被害者の心情を伝える制度があります。

事件から10年を迎えるのを前に、神戸市在住の遺族が制度を利用して加害者と向き合いました。

加害者は遺族の心情をどのように受け止めたのか。遺族は加害者の言葉をどう感じたのか。取材しました。

5月27日は愛娘の33回目の誕生日。

ケーキを焼くのはずっと昔から母親である雅子さんの役目でした。

【娘の望さんを亡くした 濱口雅子さん】

「5歳の頃にすごく喜んだことがあって『のんちゃんおめでとう』って言ったときに『ありがとう』って言ってくれたのがすごくよく覚えています」

神奈川県の女子美術大学に通っていた濱口望さん(当時23)は、10年前、飲酒ひき逃げによって命を奪われました。

【娘の望さんを亡くした 濱口雅子さん】

「こんなかわいい絵を描く人が命を失ったんだって。私たちは本当に悲しいし苦しいし、これが一生続くんだと思うとどうしたらいいのだろうと思うけれどこんな人がもう出ないようにこんな悲しいことが二度と起きないように」

アーティストとして活躍することは望さんと家族にとっての夢でした。

2015年8月、神奈川県葉山町で歩行者の列に酒を飲んでいた男の車が突っ込み23歳だった望さんが死亡。2人が重傷を負いました。

事件当時20歳だった男は危険運転致死傷罪で懲役11年の刑が確定。

裁判の中で飲酒を認めたことから遺族は望さんの遺した絵を使って飲酒運転撲滅を願う活動を行ってきました。

【娘の望さんを亡くした 濱口雅子さん】

「本当は接触もしたくないし、無視していたいし無視することで心のバランスを取っていた。

悩んだんですけどちゃんと自分が言いたいことを言わないと後悔するなと思って利用しました」

濱口さんたち家族のもとにはこれまでに一度も加害者からの謝罪はありません。

加害者は事件をどのように受け止めているのか、それを知るきっかけとなったのは2023年から始まった「心情等伝達制度」でした。

心情等伝達制度は、罪を犯し、刑務所などで服役している加害者に対し、犯罪被害者の心情を伝えるものです。

目的は、被害者の実情や心情を通して加害者に罪の重さを自覚させ、更生に生かすこと。

被害者の心情は口頭で専任の被害者担当官が聞き取り、内容を加害者に伝達。

被害者が望めば、そのときの加害者の返答が書面でえられます。

望さんの両親と妹は、ことし2月に制度を利用し、それぞれが抱く思いを担当の刑務官に伝えました。

【亡くなった望さんの父 濱口榮俊さん】

「年に何回か状況報告が送られてくる。悲しみとか怒りとかいろいろな感情を持ちながら日々の中にはとらわれずに少しでも前を向いて明るく生きていこうと頑張っている。でも急に涙が出てきたり泣いている姿を見ているのでどうしたら少しでも楽になれるのかなってそんなことを感じながらいろいろなことを話して向き合っていました」

望さんの2つ年下の妹・小百合さんは、事件後の裁判で意見を伝えることができず、今回が加害者に自身の思いを伝える初めての機会となりました。

【亡くなった望さんの妹・小百合さん】

「自分の感情と向き合ってやっぱりそこでもお姉ちゃんって死んじゃったんだと思い知らされる場面でもあるので数年前より受け入れているとはいえ悲しい。刑期が終わったからと言って罪がなくなったわけでも消えたわけでもお姉ちゃんが帰ってくるわけでもないので本当にそこは反省はしてほしいし、そういうことをしてしまったんだというのはずっと抱えて生きてほしいと私は思っている」

残された家族が事件後から積み重ねてきた思いは3月18日、関東の刑務所で受刑者に伝えられました。

妹・小百合さんの伝達内容(一部抜粋)

姉は事故でなく殺されたと思っているが、それを分かっているのか。一方的に姉の命を奪ったことを、本当の意味で悔やんでほしい。まだ、みんな事件の苦しみの中にいる

母・雅子さんの伝達内容(一部抜粋)

「私の娘は、画家、アーティストとして夢をいっぱい持っていた。娘の夢も私たちの夢も一瞬に暴力的に奪われた。それを今、どう思っているのか。想像する100倍以上の悲しみだと思ってください。そんなこと知らないというのであれば毎日考えて想像してみてください。心の底から悔いて反省してください」

父・榮俊さんの伝達内容(一部抜粋)

「捕まったのは運が悪かったと思うのではないか。心の中に望はずっと生きているという気持ちをわかって刑務所にいるのか。絶対に再犯をしてほしくない。」

心情等伝達制度が開始されてからの1年間で、利用を望む被害者から136件の申し込みがありました。

中には加害者に心情を伝えても謝罪や被害弁済につながらないケースもあります。

被害者支援について研究する専門家は、制度が刑務所側の矯正教育に生かされることが望ましいと語ります。

【犯罪被害者支援に詳しい 武庫川女子大学 大岡由佳教授】

「被害者の思いを加害者の更生に生かす。加害者が謝罪をしたいと見せた場合に弁済したいとなったらそれを具体化していくような指導は刑務所側が贖罪教育の中で一緒にやらないと進まないところがあると思う。自分だけの身勝手な更生ではなくて被害者に対する敬意を持ちつつ、思いを持ってきちんと罪を反省し、更生していくということができる贖罪指導が充実していくことが大切だと思っている」

4月23日、家族のもとに伝達結果が届きました。

それぞれが伝えた思いに対して加害者がどのように答えたのか、その内容が書面に記されていました。 

加害者からの返答(一部抜粋)

「望さんの明るい未来も将来の夢も奪ってしまい本当に申し訳ない。お母さんの悲しみは今も続いている。自分の身に置き替えて考えたとしても、親から見たら子どもより大切なものはないと思う。娘さんの命を奪ったことに対し、申し訳ない。法律をしっかり守って、二度と再犯を起こさないよう、これからを生きたい。」

そして、事件当時の自らの飲酒運転に対する認識の甘さについても言及されていました。

加害者からの返答(一部抜粋)

「事故を起こす前は、飲酒運転をしても自分は平気。事故を起こすとは思っていなかった。

飲酒運転を何回もしていた。飲酒運転をしても自分は大丈夫だと根拠のない自信があってひとごとだと捉えていた。刑務所の教育で改善指導を受けたときに、事件当時の自分の行動を振り返り、飲酒運転をしたら事故を起こすと考えられるようになった。自分が社会に出たときに飲酒運転の車にひかれるかもしれない、自分の家族が被害に遭うかもしれないと、自分のこととして考えるようになった。

実際に自分が事故を起こしてひとごとではなくなった。殺人事件と言われてもしょうがない。」

命という犠牲を出さなければ自らの過ちに気づくことはできなかったのか。

家族に届けられた遅すぎる謝罪と後悔です。

【亡くなった望さんの母 濱口雅子さん】

「その時は私一人で読んだのですごく泣きました。こんな薄っぺらいことを言うなともやもや、ぐるぐるしました。私たちはこんなふうにつらいんだよと訴えたいと思ったのでそれを訴えることができたのは本当に良かったと思いました」

【亡くなった望さんの父 濱口榮俊さん】

「変わっていないよねというところだけは見たくないです。何をしていたんだろうということだけはないようにしてほしい。年月の中で彼が感じて生かして残りの人生をどう生きていくかというのは知りたくはないけれど知りたいという思いがある」

書面が届いてから2週間余り、伝達結果を報告しようと家族の姿は望さんが眠る納骨堂にありました。

気持ちを伝えても、命は戻らない。

それでも届けたいと願うのは奪われた家族のいたみを、なかったことにしたくはないから。

【娘の望さんを亡くした 濱口雅子さん】

「私たち被害者は一生忘れることはないし、一生許すことはない。それは自分が犯した罪で自分の責任だから忘れたいだろうし逃れたいと思うだろうけど逃れないでむしろちゃんと生きていく糧にできるようなステップにしてほしい」

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