私を沼まで連れてって⑥

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 これは私がタカラヅカ沼に落ちた記録のような日記のようなものである。
 伏線、回収できるかな。

 

 さて、旦那念願の『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀(とうりけんゆうき)』であった。

 

「再現度が高すぎる」

 

 旦那の第一声である。いわゆるビジュが良いというやつだ。
 旦那は興奮した様子で画像検索をしたスマホを私に見せてくる。原作の人形劇版の『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』のキャラクタービジュアルだ。

 タカラヅカの本気に震えた。紅ゆずるさん演じる凜雪鴉(リンセツア)を始め、殤不患(ショウフカン/七海ひろき)、丹翡(タンヒ/綺咲愛里)、捲殘雲(ケンサンウン/礼真琴)、敵役の一人一人、脇を固める一人一人に至るまで、キービジュアルが衣装の細部までそのまま立体化しているのであった。〔※()内敬称略〕

 何と言ってもリンセツアが良かったらしい。原作の胡散臭さを完全再現しているそうだ。そうか、あの胡散臭さと外連味は原作準拠か。
 そしてタンヒの愛らしいことと言ったら! 必殺奥義を「エイッ、エイッ、エーイ!」と繰り出す姿のかわいらしさは一生おかわりできる。

 原作でW主人公的な位置づけのショウフカンもカッコいい。何やら秘密を抱えているっぽい斜に構えた剣士で、これは全世界の女子が好きなやつ。リンセツアに振り回されつつ、何だかんだと周りを助けてしまう人のよさにグッとくる。

 ヅカ兄ご贔屓の礼真琴さん演じるケンサンウンは、少年ジャンプの主人公的まっすぐ熱血漢。タンヒに一目惚れしてうるさがられながらつきまとうところも古き良き少年漫画の文脈。

 

「すごい。特にリンセツアがすごい。そのまますぎる」

 

旦那の感想は終始この調子であった。原作を知らない私もテンポ良くまとまった脚本で振り落とされずに楽しめた。演出・脚本は小柳奈穗子氏、原作物を過不足なく、舞台作品としてハイレベルにまとめることに定評のある方だ。

うーん宝塚面白いな、と徐々に沼におびき寄せられながら、タカラヅカをテーマにした短編は書き上がった。

キャラクターはもうヅカ兄をそのまま書いちゃったほうが面白れーわ、となり、ヅカ兄をモデルにしたキャラクターのご贔屓ジェンヌも礼真琴さんをイメージしながら架空ジェンヌ「生駒礼人」が誕生した。

『Mr.ブルー』というタイトルになったその短編は、『物語の種』(有川ひろ/幻冬舎)という本に収録されている。

もしよかったら書店さんで買い求めてくれると書店さんと出版社と私が喜ぶので何とぞよろしく。ダイレクト宣伝です。

 

 短編を仕上げてほっと一息ついた頃、我が家の伏線の男が動き出す。

 ある日、伏線の男は夕食中に何の気なしの様子で口を開いた。

 

「今、タカラヅカのチケット買えるみたいやで」

 

 折しもコロナ禍で演劇やライブの客足が軒並み伸び悩んでいた頃だった。

 タカラヅカのチケットは滅多に手に入らないと思われているし、我々夫婦もそう思っていたが、その頃は思い立ったら素人でもチケットが買えるという世情だったのである。

 

「行ってみる? 行くなら俺チケット取るけど」

「せやな、せっかくやし」

 

 我が家は阪急電車が止まったとしても30分ほどの徒歩を覚悟すれば宝塚大劇場へ赴ける場所にある。だが、私はインドアで出不精かつ面倒くさがりな人間なので、自分一人なら永遠に腰が上がらなかったに違いない。

私と正反対のアクティブな夫が、ヅカ兄の代わりについに私を宝塚大劇場へ導いたのであった。

ヅカ兄としては自分がとどめを刺したかったとほぞを噛んだことであろう。

 

前回の記事:【私を沼まで連れてって⑤】

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