(左)清水圭介選手 (右)岡崎慎司理事
清水選手ランニング風景
荒川友康監督と話す岡崎理事
初練習で汗を流す清水圭介
2025年1月16日。元サッカー日本代表・岡崎慎司は、日本に帰って来た。
その理由は、前日のFC BASARA HYOGO(以下:FCバサラ兵庫)からの発表にある。
「J1セレッソ大阪より 清水圭介 加入決定」
驚きのニュースだった。
“ダメ元”で始まった交渉
話は、昨年末に遡る。
岡崎は、生活拠点を置いているドイツで、携帯電話を手放せない日々が続いていた。
滝川第二高の2年後輩にあたる清水に、自ら理事を務めるFCバサラ兵庫入団への熱い想いを繰り返し伝えていたからである。
ただし、“ダメ元”で。
「こういう話って、“何となく”ではできないんですよね、やっぱり。生活がかかっていますから。
それも分かった上で、本気で話をするというのが、まず最初だった。そもそも、考えてくれるという時点で嬉しかったですよ。
まさか、来てくれるとは・・・ですけど(笑)」(岡崎理事)
FCバサラ兵庫のトップチームは、2023年に発足。
所属する関西サッカーリーグ(1部)は、仕事との両立を前提に昇格を狙うが、いわゆる地域リーグで、J1を国内1部とすると5部にあたる。
ちなみにチームは、初年度が6位、2年目の昨年は5位という成績に終わっていた。
残留は続けているが、さらにもう一段階上へー。
「今までは、一応上を目指しつつも、でも、ゆっくりのイメージだったんですよね。
育成から強化していこうって。でも、やっぱりどこかで勝負をかけないと、ズルズルいってしまうという危機感もあって。
そういう意味では、条件も含めて、“覚悟”を持ってオファーを出そうと岡(代表)と決めました」(岡崎理事)
異例とも言える現役J1選手獲得―。
実は、これ自体こそが、岡崎自身の後悔から生まれた発想でもあった。
「僕も、自分がトップコンディションでできる間に帰ってきて・・・という夢はあったんです。
ケガで結局は叶わなかったですけど。元々、あんまりカテゴリーとか関係なく、進みたい道で生きるスタイルでやってきていていたので。それは、圭介にも伝えました。“カテゴリーがどこであれ、自分の価値をもう一回高められるように”と」(岡崎理事)
実は、清水にはJ1クラブからのオファーも届いていた。
「もちろん、悩みました。やっぱり少しでもレベルの高いところでやりたいという気持ちもありましたから。
そこは悩みましたよね。でも、それだけがすべてじゃないというところで・・・」(清水選手)
“圭介、クラブの象徴・財産になってくれー”。
熱い想いは、海を越えて、伝わった。
岡崎理事が期待すること
時計の針を1月16日に戻す。
約2時間の初練習。清水は、時折笑顔を見せながら、一つ一つのメニューを丁寧にこなした。
36歳の経験豊富なベテランは、充実感でいっぱいの表情だった。
「若いんで、みんな年齢が(笑)一回りくらい違う選手がいますし。元気よく、ワイワイ楽しくという雰囲気はあると思うのでちょっとずつ、ですね」(清水選手)
ただ、これから待ち受ける道が平坦ではないことは、清水自身が一番理解している。
「やっぱりチームを引き上げていかなければならない。今のままでは、まだまだ上には行けないよって厳しさも含めて、吸い上げていきたいです。みんなの足りないところをサポートしながら、引っ張っていきます」(清水選手)
初練習を視察した岡崎も、その“波及効果”に大いに期待を寄せる。
「プロで長くやってきた後ろ姿を見せてほしい。このレベルの選手がいるだけで、選手もクラブも一歩前に進めると思う。
リアルに見てきた世界を、単純にプレーヤーとして持ち続けてほしい。選手として、そこのカテゴリーにいないけど、見ている世界は常にJ1みたいな。それを(ほかの)選手たちは感じ取っていくという・・・。自然とそうなるんだろうなとは思いますけどね。
決して、指導者みたいになってほしくない。バンバン(チームメートには)要求してほしい」(岡崎理事)
Jリーグに在籍した選手が1人もいない中で、チームに明確な指標ができた。
「新しい圭介のチャレンジでもあり、俺らも一緒に(クラブとして)チャレンジという感じなので。
このレベルでやりたいって来てくれた選手って応援したくなると思う。そういう人が一人でも増えてくれたら
嬉しいですね」(岡崎理事)
決め手は“5年以内にJに行くぞ!”
「本気でこの5年以内にJに行くぞ」
交渉時、岡崎からかけられた言葉である。
「これが決め手でした」と清水は笑う。
新たな夢は定まった。これからは、前進あるのみ。
かつて「主将」と「1年生GK」だった2人が、20年以上の時を経て、「理事」と「選手」としてタッグを組む。
今から春の開幕が待ち遠しいばかりである。
(敬称略)
(サンテレビ 湯浅明彦)
<プロフィール>
★岡崎慎司(おかざき・しんじ)
1986年4月16日、兵庫県・宝塚市生まれ。38歳。元日本代表FW。小学2年時からサッカーを始める。
滝川第二高では、3年連続で全国高校選手権に出場。3年時は、主将。
卒業後、Jリーグ・清水に入団。その後、海外にわたり、シュトゥットガルトやマインツ(ともにドイツ)、レスター・シティFC(イングランド)などでプレー。
また、日本代表としてW杯に3度出場し、通算50得点(歴代3位)を記録。2024年に現役引退。
現在は、ドイツ・バサラマインツの監督を務め、FCバサラ兵庫の理事にも名を連ねる。
★清水圭介(しみず・けいすけ)
1988年11月25日、兵庫県・加古川市生まれ。36歳。ポジションはGK。
滝川第二高では、1年生からレギュラーとして活躍。3年連続で全国高校選手権に出場。
2年時には、大会の優秀選手に選出された。卒業後、Jリーグ・大分に入団。
その後、京都・C大阪などでプレー。J1通算15試合、J2通算204試合に出場。183センチ、75キロ。